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【ロシア一人旅】シベリア鉄道に乗るぞ乗るぞ!

2016年 8月10日(水)

カフェで腹を満たした後、僕は駅にほど近いスーパーマーケットへ向かった。シベリア鉄道搭乗に向けての買い出しだ。これからほぼ丸三日間、列車の中で過ごすことになる。食料の調達は必須だった。

 

もちろん鉄道には「食堂車」も連結されているけれど、下調べした時見かけた体験談によればそこでの食事はなかなかにハードらしい。お値段的な意味でも、メニュー的な意味でも。貧乏旅行者は事前に日持ちするものを用意して持ち込んだ方が賢そうだ。

 

昼間迷い込んだ市場で大体のものは購入したが、ある重要な物資を用意していなかった。お茶だ。ティーバッグ入りのお茶だ。鉄道内ではお湯が使い放題。サモワール」と呼ばれる湯沸かし器が各客車に備えられていて、乗客ならそこから出るお湯を自由に使える。そのため、重要な水分補給の手段としてお茶は欠かせなかった。

 

ということで、30袋ほどティーバッグが入った紅茶を迷わず購入。それとは別に、ペットボトルに入った水を1.5リットルくらい手に入れておく。季節は夏である。冷たい水を飲みたい場面の方が多いことだろう。それから、朝食用のパンも買っておく。

パンはかさばり、水は重い。サブバッグは食料でいっぱいになった。

 

調達した食料はこんな感じだ。食パン半斤、ビスケットたっぷり、サラミ2本。プラム1kg、カップ麺2個、カップのマッシュポテトひとつ。非常用のお湯で戻るマカロニとキャラメル数箱。ティーバッグ30個に、水1.5リットル。3日間を過ごすにはおそらく充分だろう。僕は少食だ。おまけに今は満腹ときている。

 

発車予定時刻は23時55分。一応、1時間前には駅に向かった。乗り込む予定の列車がちゃんと存在してくれるかどうか不安だったのだ。もしここでつまずけば旅程がずれ、この先使う切符も使えなくなる未来だってある。

そんな不安を抱えながら駅へ入る。電光掲示板には搭乗券に印刷されているのと同じ列車番号の表示があった。よかった。どうやら最初のハードルはクリアできそうだ。

 

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ちなみにシベリア鉄道の駅に改札は無い。誰もがホームに降りることができる。そのホーム自体も日本のものとは異なり、高さがやたら低い。鉄道の車輪のほとんどが上にはみ出して見えるほどだ。その代わり各車両の乗降口にははしごのようなステップがついていて、乗る際はそれを登って車内に入る仕組みになっている。

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誰もがホームに降りられるためか、だだっ広いそこには展示物もドンと置いてある。これは昼間に撮った蒸気機関車。何がありがたくて保存されているのかは不明。デザインやカラーリングは可愛い。

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これは「シベリア鉄道の終点」を記念するモニュメント。「9288」という数字はここがモスクワから9288km離れた地点であるということを意味する。つまりこれからそれだけの距離を列車で移動するのだ。想像もつかない。ちなみに東京-大阪間直線距離でおよそ400kmらしい。

 

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さて、何番線だったかはメモしておらず忘れてしまったが、とにかくホームに降りてきた。車両の窓にはそれが何号車なのかを示すプレートが掲げられている。僕の車両は12号車だからもっと後ろだ。12号車、12号車……。

それにしても夜は冷える。僕は既に長袖のジャケットをバックパックから引っ張り出して羽織っていた。そんな格好の人たちが、周囲にもちらほらと見える。地元民らしきロシア人はさすが半袖だ。しかしウラジオストクでこの調子なら、シベリアなんて場所に行ってしまったらどうなるんだろう。持ってきた装備で事足りるだろうか。

 

いらぬ心配が増えたところで12号車が見つかった。乗降口には何人かが列を作って並んでいる。ポケットに手を突っ込みながら搭乗の時間を待つ。しばらくすると、乗務員のお姉さんが現れた。先頭の乗客から切符と身分証をチェックされていく。

 

僕も搭乗券とパスポートを握りしめながら順番を待った。これがまた不安だったのだ。この記事に書いたように、僕の持っている切符はネットで購入し、自宅のプリンターで印刷してここまで大事に持ってきた代物で、駅で発行されたものではなかったからだ。果たしてこれでちゃんと乗せてくれるのか……。

 

僕の番がきた。自前の切符とパスポートをお姉さんに手渡す。他の乗客よりもやたら入念に吟味されている気がする。ビザを確認しなければいけない分、かかる時間が長いのは本当だろう。顔写真までチェックされ、搭乗が許可された。手慣れた乗務員さんは笑顔で「行け」と指示をする。

 

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人一人がやっと通れるほど狭い廊下を進み、自分の部屋を探す。あった。僕が一番乗りだ。入って左、二段ベッドの上側。ベッドの上にはシーツがビニールの袋に包まれて置いてあり、自分でベッドメイクをする必要があった。搭乗して最初の仕事だ。

 

マットレスにシーツを掛け終わる頃、同室の乗客がやってきた。まず現れたのは小さな女の子を連れた若い母親。続いて、小学生くらいの男の子とその母親、いや、ひょっとしたらおばあちゃんだろうか。女性の年齢の話はよそう。

お互いに夜の挨拶をして敵意のないことを示し、全員で黙々とベッドメイクを進める。途中、乗務員さんが部屋を訪れ、枕のカバーと、歯ブラシの入った包みを手渡してくれた。

 

そうして自分の寝床を作り、荷物の置き場所を決めたところでようやく発車時刻である。23時55分。列車はゆっくりと動き始めた。枕の位置を窓側にするか廊下側にするか迷っていると、女の子を連れた方の母親が髪をほどき、服を脱ぎ始めた。僕はとっさに顔を背けて、壁側に寝返りをうった。そしてそのまま着替えもせずに、深く、深く、眠ってしまった。