【一人旅】ロシアまでどう渡る? ロシアをどう渡る?
事前準備編その2。つまりまだ日本での出来事です。次回から旅行記に入ります。
シベリア鉄道の切符を手に入れる
シベリア鉄道に乗ろう、と心の内で決めたはいいものの、どうすればその切符を手に入れられるかがわかりません。旅行のことならその筋の専門家だろう、と街の旅行代理店いくつかに入り、「シベリア鉄道に乗りたいんですが」と切り出すも、お出しされるのは決まって2泊3日とかのツアープランでした。ノー、そういうのではなく……。僕は切符そのものが欲しいのです。
こうなれば頼りになるのはインターネット。ロシアのビザは申請してしまったので、もう何が何でも行くしかありません。
日本語で検索してもめぼしいサービスは出てきません。海外の業者を探してみましょう。英語で「Trans Siberian Express」とググると早速ヒットしました。その名もtranssiberianexpress.netです。
▲https://www.transsiberianexpress.net
このサイトがよくできてる。乗車したい駅名と目的地となる駅、そして出発したい日付を左上のフォームに入力すれば、お目当ての列車が検索され、切符の購入までできるという仕組みです。
めちゃめちゃお世話になったサイトなので勝手にですがちょっとだけ使い方を説明しましょう。試しに来週の日曜(2018年9月30日)、ウラジオストクを出発しモスクワまでを走る列車が無いか探してみます。
2件見つかりました。上段の列車(099Э)は少しお安め。二等客室で403米ドル(日本円でおよそ4万5千円)、三等客室なら192ドル(およそ2万1500円)ですね。6泊7日の旅程でこれは安いですよね。寝台列車はいわば宿泊費、移動費込みな訳ですから。
ちなみに下段の「001M Rossiya」という列車はロシア鉄道が誇る優等列車、「ロシア号」です。噂では設備も整っているらしく、シベリア鉄道といえばこれ、というシンボル的列車でもあります。懐事情や好み、また出発したい時間に応じて列車を選べるのがいいですね。
僕は貧乏旅行者なのでためらわずお安い方の列車を選びたい……ところですが、今回はデモンストレーションなので奮発してロシア号の事情を覗いてみましょう。列車を選択したら、次は座席決めです。
客室のクラスと座席のタイプ、付属するサービス、お値段と残り座席数が並んで表示されています。
客室のクラスについて説明しましょう。一等客室はベッドが二つの二人部屋、二等・三等客室はいずれも二段ベッドが二つの四人部屋です。二等と三等を隔てているのはドアの有無。三等客室にはドアがありません。廊下からお部屋の中が丸見えです。初心者にはお勧めできない。まあ、僕が乗った二等客室もドアに鍵はかからなかったので、実態はそんなに変わらないのかもしれません。
座席のタイプ。「Upper」だの「Lower」だの表記されているのは、「二段ベッドの上と下、どっちがいい?」という意味です。通常の列車だと下の段の席の方がお高い運賃を取られるのですが、どうやらロシア号だと一律のようですね。さすが。
なぜ下段の料金が高いのかというと、下段の方が便利だからです。窓からの景色も見やすいですし、備え付けのテーブルも使いやすい位置に陣取れます。さらに収納もだいぶ多いし、寝ている間に転がり落ちてもダメージが少ない。そんな理由でしょう。
高いところが好きなら、安く座席も取れるしお得ですね。
と、自分の好みの席を決めたら次は国籍やパスポートの番号など個人情報の記入、記入した情報の確認、そしてクレジットカードでの支払いへと続きます。これで席の予約は完了です。切符は任意のメールアドレスに添付ファイルとして送られてきます。それを自分でプリントアウトし、現地へ持っていけばそのまま搭乗券となります。不安を拭えないシステムですが大丈夫です。僕はちゃんと乗れました。三度とも。
一番安くチケットを手に入れられるのはロシア鉄道の公式サイトからですが、そこだと言葉の壁が立ちはだかる(一部表記がロシア語)ので個人的にはこちらをお勧めします。
シベリア鉄道を利用する上で一つ重要なことをここで書いておきます。大事なことです。ロシアは東西に広い国です。国土内に11個のタイムゾーンを持ち、その最大時差は10時間にもなります。そんなお国柄のため、シベリア横断鉄道の発着時間は全てモスクワ時間表記です。全てモスクワ時間表記です。ウラジオストクを朝の8時に出発したければ、同日の「深夜1時発」と書かれた切符を入手しなくてはなりません。そのことを忘れると大変なことになります。
僕は大変なことになりました。
そんなことを知る由もなく、自室でノートPCをカチャカチャやっていた頃の僕は、ついにシベリア鉄道の切符を手に入れ浮かれていました。途中、寄りたい街もあるので切符の数は以下の計3枚。そうそう、車両内にはシャワーが無いことがほとんどなので途中下車してリフレッシュするのも大事です。
3つ目の、国境をまたぐ「モスクワからベルリンまで」ルートがくせものです。このルートではベラルーシを通過するのですが、ここは通るだけでもビザを要求される国。ロシアのビザとはまた別にベラルーシの「トランジットビザ」を用意しなくてはなりません。それを承知で切符を取ってしまいました。行くしかないでしょう。
ベラルーシ大使館へ
大学をサボって東京は五反田の閑静な住宅街にやって来ました。中央の国旗を掲げた建物が駐日ベラルーシ共和国大使館です。ロシアビザを取るためパスポートを業者へ郵送していたことを親父に知られバッチバチに激怒されたため、今回は直接ビザの申請に参じました。往復の新幹線代が痛い……シベリア鉄道の料金を知った後だとなおさらだよ……。
ビザの申請にはベラルーシを通過することを証明するための書類(今回はモスクワ-ベルリン間の切符)が必要であるため、ここへは必ず旅程を決めてから来ましょう。
ベラルーシ大使館はロシア大使館よりもサービスがよく、郵送でのビザ申請も受け付けてくれます。ビザが出来上がるまでは遅くとも一週間。受け取りのためだけに再び上京する金銭的な余裕は無いため、対応してくれた大使館の日本語ベラベラベラルーシ人兄ちゃん(たぶんすっごく偉い方)に返信用の封筒をこっそりお渡しし、その場を後にしようとしました。
ですがせっかく来たのですし、ベラルーシ語の一つでも盗んで帰りましょう。その背の高い、いかにも役人らしい兄ちゃんに聞いてみます。
「ベラルーシでは『ありがとう』は何と言うんですか?」
「あー、『ジャークィ』と言いますね。ロシア語の『スパシーバ』でも通じますが」
「へぇ。じゃあ、ジャークィ」
早速使うと、兄ちゃんは一瞬ですが笑ってくれました。このベラルーシ語はきっと一生忘れないでしょう。
そうして手に入れたベラルーシトランジットビザです。ビザでパスポートを埋めていくのもなかなか気持ちいいですね。
ウラジオストクまでのフェリーを予約する
旅行の骨格がだいぶ出来上がってきました。ベルリンからどうするかはその時考えることにして、すっかり忘れていたのはロシアの港町、ウラジオストクまで渡る手段のことです。最終目的地まで飛行機を使わないというルールを課していたので、島国である日本を脱出する手段は限られています。船です。
僕が旅行した2年前、2016年には既に日本とウラジオストクを結ぶ航路はただ一つ残されているだけになっていました。昔は富山県からも定期便が出ていたらしいのですが、現在は鳥取の境港を週に一度出航するフェリーが、韓国の船会社によって運航されているのみです。
ということで早速、件のDBSクルーズフェリーに予約の電話をかけてみました。が……空席は既に無いとの回答。マジか? 出発一ヶ月前の予約では甘過ぎた? そうか、もうここしか航路無いんだものな……。日本中の物好きが集まるのか……。俺みたいなことしてる連中が他にもいるのか……。
どうしたものかと一瞬途方に暮れかけましたが、冷静さを失ってはいけません。こういうのは専門の代理店が何席か確保しているもの。そう楽観的な予想をし、大手のフェリー予約サイトダイレクトフェリーズで検索をかけました。
探してみると、やはり見つかりました。速攻で予約。当初狙っていた一番安いエコノミークラスは取れませんでしたが、まあよしとしましょう。その次に安価な二等船室の二段ベッドを確保し、ひとまず安堵します。およそ3万3000円。代理店を通さない正規の値段なら、エコノミークラスが片道2万6000円、二等船室は片道で3万円です。44時間、2泊3日の船旅だと思えば安いんじゃないでしょうか。
「帰る手段」を用意する
出発する準備はおおむね整いました。ですが国によっては入国審査の基準の一つに、復路の交通手段を保持しているかどうかという項目を設けているところがあります。イギリスなどはそうです。ぶらぶらするのが目的の旅行とはいえ、あらゆる場所の入国管理官にこいつは不法就労者だと思われないよう、帰りの航空券くらいは用意しておく必要がありました。それに、僕に海外で飛行機のチケットを注文できるほどの語学力が備わっているかといえば、それも怪しい。ここは素直に日本で帰る手段を用意しておいたほうが良さそうです。
それはつまり自ずと最終目的地が決まる、ということでした。どれだけ寄り道しても、最後にはその空港へたどり着かなくては日本へ帰れない。そういうことです。僕は旅行代理店のお姉さんと共に慎重にその場所を決め、旅行ポーチの奥底へ航空券をしまいこみました。
さあ、各種外貨も揃え、旅行保険にも加入し、旅に出る準備が整いました。こうしていろいろな紙幣を並べてみると意味もなく興奮しますね。何もしていないのに世界を股にかけた気がします。あとは荷造りをし、出発するのみです。