ひとりでもにんげん

旅好きなのにインドア派、一人でどれだけ遊べるか

【ロシア一人旅】バイカル湖のほとり、リストビャンカへ

2016年 8月14日(日)

さて、イルクーツク駅での心細い一夜を明かし、僕はトラムに乗っていた。おそらく始発の、ボロボロの路面電車だ。本当に電気で動いているのか怪しんでしまうほどのオンボロさだった。しかし座席は既に乗客で埋まっているほど繁盛していた。

イルクーツクの駅前でそれに乗り込むと、車内の後ろの方で待ち構えていたおばあさんが運賃を直接回収していくシステムだ。料金はどこまで乗っても一律のようで、切符の発券機などは無い。15ルーブル(およそ30円)という破格の安さで、終点まででも乗っていられる。

 

だが今回はウラジオストクで犯したような間違いを再現する気はない。ちゃんと目的地は決まっていた。「ABTOVOKSAR」という停留所まで行けば、リストビャンカ行きのバスに乗れるらしい。ABTOVOKSAR、どう発音するのか自信は無いが、停留所に近づくとアナウンスしてくれるので恐らくその時になればわかるだろう。

 

トラムは大きな橋を渡り、イルクーツクの市街地へ入る。大きな街だ。誰が呼んだか知らないが、「シベリアのパリ」とも称されるらしいイルクーツクの街並みは、レトロな雰囲気の統一感があり確かに整っていた。しかしあいにくパリには行ったことがないから比較のしようもない。それにパリには路面電車が無いだろう。

 

イルクーツクの駅から15分、20分ほどトラムに乗っただろうか、目的のABTOVOKSAR停留所が見えてきた。キリル文字で大きくそう書かれた建物が正面に見えたから、一目でそうだとわかった。所持品を確認して、トラムを降りる。日が昇ってもやはりこの街は寒い。さすがシベリアの街だ。曇っているせいもあるかもしれないが。

 

建物の内部には土産物屋とテレビの目立つ待合室、それにコーヒーショップがあった。とにかく寒かったので熱いコーヒーと甘そうなパンをそこで買った。コーヒーは躊躇わず二杯飲めるほど安かったのを覚えているが、いくらだったかは記録にない。

 

バスチケットの窓口は地味で少しわかりにくい場所にあった。長い行列ができるまでそれとわからなかったのだ。始発のトラムでここに来たのだから、もっと早くチケットを買えただろうに。

 

行列の傍では、ハンチング帽にツイードのスーツをばっちり決めた爺さんがタクシーの客引きをしていたのを覚えている。

 

「リストビャンカまで。1、5、0、0。1500ルーブルだよ。俺のタクシーに乗らないか」

 

そんなことを拙い英語で行列に投げかけているのだった。特に僕は一目でロシア人でないとわかるから、積極的に勧誘を受けた。

 

「タクシーに乗らないか。1、5、0、0」

「1500ルーブルは高いよ旦那」

「高い? お前はどこから来た」

「日本だ」

日本のタクシーは1500ルーブルより安いのか。リストビャンカまではここから70kmあるんだぞ」

 

そう言われると弱かった。1500ルーブルといえば3000円しないほどだ。日本を基準に考えると、タクシーとしては安い。

 

「でもね、旦那。ここはバスに乗るところだろう」

「じゃ、そうするといい」

 

それ以上その爺さんは僕をターゲットにしなくなった。少し寂しい。

 

窓口のおばさんに「リストビャンカまで、一人」と告げ、パスポートを提示すると、乗車券は難なく発券された。その運賃が111ルーブルあまりの安さに目的地を誤っていないか何度も確認したほどだ。チケットにはどう見たって「リストビャンカ」と読める字が書いてある。そう考えると爺さん、やっぱり1500ルーブルは高いぜ。あなたとのタクシーもそれはそれで楽しい旅になったかもしれないけれど。

 

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これがそのバスだ。日本で言うところのマイクロバスの感覚に近いのかもしれない。僕の座席は一番前の窮屈な場所だった。「一人です」と伝えたくて「アジーン(ロシア語の『1』)」と言ったのが、もしかしたら窓口のおばさんには座席番号のことだと思われてしまったのかもしれない。

 

バスは9時30分の出発予定だったが、それよりも10分ほど遅く出発した。フロントガラスの内側にはやたらアジアっぽい装飾の布が掛けられていて、ますますロシアという国がわからなくなってくる。

 

運良く窓際の席だったが、景色を楽しむより早く眠気に襲われてしまった。だって仕方がない。この晩はほとんど寝ていないのだ。幹線道路に入り、バスがやたら飛ばし始めたところで、僕は意識を失うように眠った。

 

一時間ほど走ったのち、目が覚めた。ちょうど「湖はこちら」といったような看板が見え、空もその頃には晴れていた。日差しが暑いほどだ。

そしてうとうとした気分が抜けないうちに、バスはリストビャンカの停留所に到着した。周りには同じような小さめのバスや、いかにもな観光バスが停まっている。僕はそのバスから一番最後に降りた。

 

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なるほど、ここがバイカル湖か。目が覚めるほど水の透明度が高く、とにかく広い。目を向ける方角にもよるが、本当に対岸が見えないのだ。ここが海だと言われても信じてしまいそうだ。

 

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時刻は11時。ホテルにチェックイン予定の14時まではまだ時間がある。これだけの絶景を前にして、僕の頭の中はとにかくシャワーのことでいっぱいだった。シャワーを浴びたい。なんならバイカル湖にこのまま飛び込んでしまいたい。それも覚悟して湖水に触れてみたがかなり冷たい。本当にあのフランス人はここで泳いだのか?

 

僕はシャワーにありつけるまで、周囲を散策することにした。